写真 自作のFET & CRD選別冶具でパーツを選別して自作ヘッドホンアンプを作って聴いている人
オーディオの世界には〇〇式と呼ばれる流派が幾つかある。
ワテが知っている有名なものだと、
- 金田式
- 安井式
- 窪田式
- 佐久間式
- ぺるけ式
などかな。
その他、沢山ある。
その中でも、最近人気があるのがぺるけ式だ。
ぺるけさん設計のオーディオ機器は、低価格だけれども高音質で有名なのだ。
公式サイトはこちら。
ワテもいつか、
「ワレコ式オーディオ回路」
でセンセーショナルなデビューを飾りたい。
さて、オーディオ回路に良く使われる差動増幅回路と言うのがあるが、同じ特性を持ったトランジスタやFETを使って差動増幅回路を組むのだ。
その為には、特性が良く揃ったトランジスタやFETを使う必要がある。
所謂、「ペアを組む」とか「ペア取り」とか言うやつだ。
ワテも今年は、ぺるけさん設計の平衡プリアンプを作ってみたいなあと思っている。
そこで、まずはFETのペアを組むためにFETの特性を測定する冶具(やぐ)を作る事にした。
この冶具もぺるけさん設計だ。
当記事は、その製作過程の備忘録。
では、早速作ってみよう。
FET & CRD選別冶具(改訂版)はこんな回路
「FET & CRD選別冶具(改訂版)」の回路をぺるけさんのサイトから引用させて頂くと、以下の通り。
図 ぺるけさん設計のFET & CRD選別冶具(改訂版)
引用元 http://www.op316.com/tubes/toy-box/tester2.htm
この選別冶具はN-chのFET専用だ(その後、この回路を参考にワテ独自のP-ch版も作ってみた。解説記事有り)。
特徴としては、ツェナーダイオードとトランジスタから成る定電流回路があるが、ロータリースイッチS3でエミッター抵抗値を切り替えると、ドレイン電流値を三段階に切り替えられる。
ぺるけさんの設計では、
- 0.75mA
- 1mA
- 2mA
の三種類の電流値に設定出来るように三つの抵抗R1, R2, R3の値を事前に決めておく。
このようにしておくと、例えば1mAのドレイン電流が流れている状態でVGSを測定して、同じVGSを持つFETを選別してペアにする。
そうすると、実際に差動増幅を組んだ時の動作状態に近い状態でペアが組めると言う事だ。
なるほど。自称、電子回路初心者のワテでも、この辺りは理解出来る。
なお、ネット検索するとオペアンプを使った定電流回路を採用している作例もある。このトランジスタ方式のぺるけ式を作ったワテの感想だが、オペアンプなどを使わなくてもぺるけさん方式で完璧な定電流回路が実現出来ている。少し使ってみたが温度変化によるドリフトも無い。
なので、特に理由が無ければぺるけさんオリジナル回路のまま作るのが良いだろう。
スイッチS1の意味
スイッチS1を上に倒すとテスターでは100Ωの両端電圧が計測される。
100ΩはFETのドレインに直列に入っているので、その100Ωの両端電圧を100Ωで割ればドレイン電流IDが求まるのだ。
製作時には、その電流IDがこれらの三種類の値(0.75mA, 1mA, 2mA)になるように抵抗R1~R3をカット&トライで決める。
一方、スイッチS1を下に倒した場合には、テスターで計測するのはFETのゲートソース間電圧VGSだ。
なので、S3で目的の電流値にセットしたら、あとはS1をVGSモードにして多数のFETを差し替えてひたすらVGSを計測するのだ。
スイッチS2の意味
スイッチS2を下に倒しておくと、被測定対象であるFETのソースがトランジスタの定電流回路に接続される(上図)。
なので、FETのVGSを測定する場合はS2は下に倒しておく。
スイッチS2を上に倒した場合には、ゲートとソースが接続されるので、所謂IDSSが測定できる。
従ってこの時にはS1は100Ωの両端電圧を計測するモード(S1を上に倒す)にしておく必要がある。
この時にもしS1が下に倒れていると、それはVGSを計測するが、今はゲートとソースがショートしているのでVGSは0ボルトだ。
ちなみにIDSSの意味は、ゲートをソース(S)とショート(Short)した時の、ドレイン(D)の電流(I)なのでIDSSと言うのかな。たぶん。
FETを定電流素子として使う場合に、このようにゲートとソースを接続して使う。
スイッチが三つもあるので慣れるまで時間が掛かったのだが、一応、ここまでがワテがぺるけさんの回路を必死で解読して理解出来た内容だ。
S1とS2の組み合わせまとめ
ワテの場合、S1とS2の役割がこんがらがって良く分からない。
ぺるけさんの説明では以下の通り。
S1の機能・・・テスターで測定する対象を、「FETのバイアス」か「ドレイン電流」か切り替える。
S2の機能・・・測定モードを「FETのバイアス特性」か「IDSSあるいはCRDの定電流特性」か切り替える。
S3の機能・・・「FETのバイアス特性」を測定する際のドレイン電流値を切り替える。
引用元 http://www.op316.com/tubes/toy-box/tester2.htm
それを表にまとめてみた。
テスターで測定する対象を選択 | FETの何を測定するか選択 | ワテの説明 | ||
S1上:ドレイン電流計測(ID) 電圧[V] = ID x 100Ω が計測される。 |
S2上:IDSS計測 |
❶ IDSS計測モード 定電流回路OFF、G-S間をショート。 FETのIDSSあるいはCRDの定電流特性計測を行う。 |
||
S2下:FETのバイアス計測(VGS) |
❷ モード❸のVGS測定前に目的のID値に設定するモード(定電流回路ON) VGS計測時にドレイン電流がS3で設定した値になっているか確認する。 |
|||
S1下:FETのバイアス計測(VGS) | S2上:IDSS計測 |
不要なモード 定電流回路OFF、G-S間をショート。 常に0ボルト |
||
S2下:FETのバイアス計測(VGS) |
❸ 上記の❷でIDをセットした後でVGSを計測するモード(定電流回路ON) 通常はこのモードで多数のFETのVGSを選別する。 |
表 「FET & CRD選別冶具(改訂版)」のスイッチS1とスイッチS2の役割まとめ
こんな感じか。
通常は水色のモードで多数のFETのVGSをひたすら計測するのだ。
まあ、自称電子回路初心者のワテの理解なので間違っているかもしれない。
要点としては、IDSSを計測する場合には、S1とS2は上に倒す必要がある。もしS2が下ならVGSが計測されるので、常に0ボルトになるからだ。
ちょっと操作がややこしい。
S1とS2を廃止して、一つのロータリースイッチに置き換えれば簡単になる気がする。
例えばこんな感じか。
- ポジション1 FETを定電流駆動して IDx100Ω を計測(ドレイン電流を確認する為)。
- ポジション2 FETを定電流駆動してVGSを計測。
- ポジション3 FETのGSをショートしてIDSSを計測する
2極双投のトグルスイッチ2個をロータリースイッチに置き換える訳なので、たぶん、4回路4接点のロータリースイッチが一個有れば良いが、今の場合はS1とS2の全組み合わせ4通りのうちS1上、S2下のパターンは使わないので4回路3接点のロータリースイッチが有れば良いと思う。
今回はぺるけさん設計のオリジナルに忠実に作ったのでトグルスイッチにしたが、2SJ76などのPchのFET用にこの「FET & CRD選別冶具(改訂版)」のPch版を設計して作りたいと思っている。
その時には、ロータリースイッチ版を作成してみるかな。
ちなみに2SJ76は2SK170とコンプリメンタリペアになる素子だ。
「FET & CRD選別冶具(改訂版)」を作る
回路は基本的にはぺるけさんの回路と同じだ。
早速作ってみた。
製作途中の写真だが掲載しておく。
写真 作成途中の「ぺるけ式 FET & CRD選別冶具(改訂版)」ワレコ版
アルミLアングルと木片でシャーシを手作りした。
奥に並んでいるのは、右から順に
- S1
- S2とLED赤色
- S3
- 10KAボリューム取り付け前(穴だけ有り)
である。
手前に並んでいるのは、右から
- S4
- S5
- LED緑(電源ON表示)
だ。
S4とS5はワテのオリジナルだ。
ぺるけさんオリジナル回路からの変更箇所①ボリューム追加
オリジナル版はS3は固定抵抗が三つだが、可変抵抗も追加しておく。
つまり固定抵抗だとドレイン電流IDが三種類の値(0.75mA, 1mA, 2mA)に限定されるが、可変抵抗を追加しておくとIDを好きな値に設定して定電流特性が評価できるからだ。
それに関しては、ぺるけさんのサイトにも以下の説明がある。
私は抵抗値をすべて固定にしましたが、R1~R3のいずれかを可変にしたらより使いやすくなるでしょう。たとえば「1.1kΩ+10kΩボリューム」にすれば、5mA~0.5mAくらいの範囲の定電流特性が得られます。
この場合、ボリュームはA型が適します。左に回し切ると5mAとなり、12時で2.3mA前後、右に回し切ると0.5mAになるような動きをします。
引用元 http://www.op316.com/tubes/toy-box/tester2.htm
なので、ワテもこの説明に沿って作る事にした。
ぺるけさんオリジナル回路からの変更箇所②S4追加
S4は(ON)-OFF-ONの2極のトグルスイッチ。
2極とは2回路同時制御出来ると言う意味だ。
なのでトグルスイッチの裏側には6端子が出ている(下図)。
■ ■ 端子
■ ■ 共通端子
■ ■ 端子
2極双投のトグルスイッチ
本当は3極のトグルスイッチ(下図)を使いたかったのだが
■ ■ ■ 端子
■ ■ ■ 共通端子
■ ■ ■ 端子
3極双投のトグルスイッチ
手持ちに無いので2極を使った。
S4の目的は、ICソケットにFETを挿して、S4スイッチをONにしたらFETの三本の足(D,G,S)が導通するようにした。
要するにに計測開始スイッチだ。
- S4を手前に倒すとONになるので、通常の計測状態となる。
- S4を中立させるとOFFになるのでFETには電流は流れない。
- S4を奥に倒すとモーメンタリーなので倒している期間はONだが手を離すとOFFに戻る。
まあ、こんなスイッチが必要かどうか分からないが取り敢えず手持ちに使っていないトグルスイッチが有ったので使ってみた。
なお、上でも書いたように本当は3PのトグルスイッチでDGSの三本線を同時に切り替えたかったのだが、2Pしか無かったのでDは回路に繋いだままG、Sの2極のみを切り替える事にした。
まあ、それでも問題は無いと思うのだが。
ぺるけさんオリジナル回路からの変更箇所③S5追加
トグルスイッチ好きのワテであるが、もう一つのトグルスイッチS5の ON-OFF-ON を追加した。
ICソケットは手前と奥の二列になっている。
その部分にFETを挿す予定であるが、手前に挿したFETと奥に挿したFETのどちらを計測するか選定出来るスイッチがS5だ。中央にすればOFFになるがOFFモードが必要なければON-ONタイプのスイッチでも良いだろう。
まあ、こんなスイッチが役に立つかどうかは使ってみないと分からない。
ワテとしては、選別した二つのFETを最後にもう一回念のために特性を測定する時にこのS5スイッチが役に立つかなあと思って付けたのだ。
つまり、ペア候補の二つのFETをソケットの手前と奥に挿す。
そして、S5を切り替えればそれぞれのFETを全く同じ条件で計測できる。
FETを差し替える為に手で持っただけで手の温度でFETが暖められる。あるいは計測中に息を吹き掛けただけでもIDSSやVGSが変動する。
なので、このようにペア候補のFETをソケットに挿していて、スイッチで切り替えるだけで計測できるようにしておけば、出来る限り同じ条件でペア取りが出来るかなあと自称、電子回路初心者のワテは考えたのだ。
まあ、実際に完成してから使い勝手をレビューしてみたい。
なお、このスイッチS5もDGSの三本足を同時切り替えしたかったので本当は3Pのトグルスイッチが良かったのだが2PしかなかったのでFET1とFET2のDは回路に常時接続、GとSを2Pスイッチで切り替える事にした。
「FET & CRD選別冶具(改訂版)」の背面
下図は「FET & CRD選別冶具(改訂版)」の背面写真だ。
写真 「FET & CRD選別冶具(改訂版)」の背面写真
二つの穴にはテスターピンを差し込めるソケット(チップジャック)を取り付ける予定だ。
こう言う赤、黒のやつを数個常備しておくと、ちょっとした計測冶具を作成する時に役立つ。
あるいはサトーパーツ製でも良い。
上写真の右の15ピンD-Subオスコネクターもワテオリジナル。
ワテの場合、この記事で紹介しているように実験用に自作した定電圧電源を使っている。
今回は、この自作定電圧電源の0-20VDC出力を利用する。
その20ボルトを写真下に写っている三端子レギュレータ7812を使った回路で12VDCを生成して使うのだ。
まあ、本当は自作定電圧電源の出力に12Vがあれば三端子レギュレータで12Vを作る必要は無いのだが、まあ、取り敢えずササッと作ってみた(下図)。
今の時代なら、ACアダプターなんて40V以下なら大抵の電圧は入手できるだろう。
3, 5, 6, 8, 9, 10, 12, ・・・, 40Vなど。
ヤフオク辺りでノートパソコン用、電化製品用などのACアダプターなら一個100円くらいでも売っている場合がある。なので、5V, 9V, 12V, 15V, 20Vあたりを各2個ずつ買って箱に入れて多出力の電源を自作すれば電子工作の実験には活用できる。ワテの場合は5, 15×2, 20×2だけなので9Vや12Vあたりを追加購入したいと考えている。
さて、本題に戻ろう。
写真 DC20VからDC12Vを生成する電源回路(L字型形状)
あまり深く考えずに作ったので、プリント基板の取り付けに右往左往した。
そして最終的にはL字型に折り曲げて、下図のように取り付ける事にした。
写真 電源回路基板を貼り付けボスを使ってシャーシに取り付けた
基板の固定には、以下の製品が便利だ。
タカチさんの「ユニバーサル基板・基板固定用パーツ・スペーサー」シリーズの中の
T-600 M3インサートナット入り貼付ボス
だ。強力な粘着テープで貼り付けて基板をM3ネジ(付属していないので自分で用意する)で固定すれば良いのだ。ちなみにT-700はM4ネジ版。
注意事項としては、一旦貼り付けると剥がすのは困難なので、貼り付け場所はよく検討して間違い無く正確に貼り付ける事。
あとは、基板の空いている部分に2SC1815-GRやツェナーダイオード、抵抗などを取り付けて配線すれば完了だ。
まとめ
ぺるけさん設計のFET & CRD選別冶具(改訂版)の製作を開始した。
シャーシはアルミLアングルと木材で作成した。
アルミLアングルは安い。
3.6メートルで1000円ちょっと。
あとは木材が有れば簡単なシャーシを作成出来る。
今回作成したのは幅150mmなので、もし上のアルミアングルを買えば150mmが24個くらい取れる。
なので、一つのシャーシにアングルを2本使うとして、12個のシャーシを作成出来る。
実験用のシャーシに使うには最適だと思う。安いし、簡単に作れるからだ。
今後の予定
この「FET & CRD選別冶具(改訂版)」が完成したら2SK30A, 2SK117, 2SK170などの東芝製J-FETをペア取りをしたいと思っている。手持ちのJ-FETでペアが取れるかどうかは分からない。
ちなみに、これらの東芝製JFETや汎用で人気が有った2SC1815などは2013年か14年頃に製造中止(ディスコン)になったらしいので、流通在庫のみしかないらしい。値段も少し高くなっているようだ。でもまあ、後10年くらいは流通するとは勝手に思うが、無くなったら無くなったで代替品がどこかのメーカーから登場するだろう。
需要が有る限り、供給はされるものなのだ。
じゃあ今のうちに買い込んでおこうかなあと思う人もいるが、使い切れないものを大量に買い込んでも勿体ないだけなので、ワテの場合はその時に必要なものだけを通信販売で買うようにしている。
つづく。
後半記事が完成した。
コメント
「S1とS2の組み合わせまとめ」ありがとうございます。
以前作ったモノがダメになって作り直すにあたって今度はS1とS2を一つにしたいけどロータリースイッチしかないかなと思っていたのですが、まとめの表を見て使えるトグルスイッチがあることに気付きました。
それがNKKのM-2040というon-on-onタイプの4回路のトグルスイッチです。
どうやら本来はジャンパー配線をして2極3投として使うことを想定したもののようですが、[A側・A側・A側・A側] – [A側・B側・A側・B側] – [B側・B側・B側・B側]とセンターでは交互に反対の極に接続されます。
永島様
この度は小生の記事にコメント有難うございました。
最近では年に一回くらいしかFETを選別しないので、S1とS2の役割を私もいつも忘れます。
KiCadで基板を設計して作り直そうかな、などと検討中でその時にはロータリースイッチ
を採用しようかなと思っていました。
それが2極3投のトグルスイッチのジャンパー線を外して使う作戦でも行けると言う情報ありがとうございました。
on-on-onタイプのやつですよね(下図)。
https://www.wareko.jp/blog/create-your-own-speaker-selector#toc9
私もこのスイッチの存在は知っていましたが、FET選別機に利用出来るとは知らなかったです。
では、良い作品が完成しましたら是非お教えください。